国民生活の秩序を正す法律も時代とともに変化が必要
広告活動とは一体どのような事を言うのだろう?消費者に対して消費行動につながる有益な情報を提供することで、実際に消費者が購買や利用行動を起こす、一連の仕組みのことだと考えている。
過去に数回、「あはき」関連の店舗からデザイン依頼を受けて感じたこと。それは、極端に情報統制された現状の法律下では、いわゆる広告活動など不可能であるということだ。現在、厚労省などが中心となり新たな指針の広告ガイドラインを作成中だという。しかし、多くの事業者や消費者など現場の声を聞かずに進める話し合いに意味があるのか?
古臭い内容の法律を新しい時代に充てようとする違和感
「あはき」とは、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの略称である。昭和22年に制定されてから繰り返し改訂され続けてきたが、大幅に変わることはなかった。時代は大きく変化する中、その大枠の要件は古臭いまま置き去りにされ、現代社会で十分満足に機能しているとは言えない内容である。
あはき関連の広告活動は「あはき法第7条」などにより厳しく規制され、内容の制約も多い。印刷物を利用した本来の広告活動の目的である「集客や周知徹底」などは行えない。つまり、印刷物と言えども看板同様の単なる無味乾燥な掲出物と同じ役割でしかない。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会が進行中で、過去の内容も閲覧可能である。中身に目を通したが、今だガイドラインの作成には至っておらず、この分では、その骨子が大きく変わることはなさそうである。
画一的なデザインに広告活動的要素がどれほどあるのか?
あはき法の要件に準じた内容でチラシを作ると、この程度の項目しか表示できない。院長やスタッフが時間を見つけて作れるレベルで、デザイナーは必要ない。実際に掲載加納な項目は、店舗名や連絡先、営業時間、休日、住所、地図、店舗写真、室内写真などで、あくまで条文に記載されていない項目は掲載できない。つまり、キャッチコピーや紹介文、URLやメールアドレス、スタッフやイメージ的な写真、料金、各種保険取扱、施術の流れ、店舗の特徴、対応可能な症状など、患者を誘引する内容や病気を治すような「治療」などの言葉も使えない。
このように、まるでテンプレートにはめ込んだような画一的な内容のチラシで、消費者が的確に店舗を選べるとは思えない。
広告の実態は違反デザインが多く見られる
実際、新聞折り込みやポスティングの「あはき」関連のチラシは、内容盛りだくさんの違反チラシが多い。概ね約8割の広告で、何かしらの細かな違反が見られるのが現状である。掲載内容に違反が見つかっても、他店舗や消費者から保健所へ通報がなければおとがめはない。
あはき事業者は学校で法律についても学習し、違反した場合の罰則も理解しているはず。それでも従わないのは、条文通りの内容では患者など来てくれないと考えているからに違いない。確かに、自分が店舗を選ぶことを考えれば、上記の少ない内容だけで優良な店舗を選ぶのは難しい。
すべての保健所が等しく法律の内容を理解できていない現状
その昔、ラフデザインが完成した段階で、管轄の保健所による任意の添削を受けてみた。内容の8割以上が掲載不可能だと突き返され、取引先との相談の上、制作を断念した経験がある。掲載できない理由を保健所の担当者に問い正すと「条文に記載されている項目以外は載せられません」の一点張りで、何が不都合なのか端的に話してもらえなかった。恐らく、その担当者は法律の条文だけでなく、広告活動自体の意味や意義すらまったく理解できていなかったのだろう。
ついでに、違反した場合のことも尋ねてみた。ポスティング先の住人や同業者からの通報があれば、保健所の職員が店舗を訪れて運営者に注意指導を行うのだという。規定では、最悪の場合30万円以下の罰金もあるそうだが、ほぼ注意や指導だけに終始するそうだ。お役所仕事なので、通報がなければ何も対応せず、定期的な個別確認もせず放置している現状がある。
法律の条文自体が時代に伴わない内容が多い。国民生活の秩序を守る目的とは言え、これほど少ない情報だけでは万民が的確な判断をするに足りない。現状の印刷物による広告では、消費者と事業者の双方にとって不親切であり、今後は大幅な改善が必要だと言える。