仕事への情熱と責任感VS残業や徹夜作業
デザイン業界に限らず企業の働き方が徐々に見直され始めている。大企業や大手メーカーに比べ、下請けの中小零細や個人事業などは常に納期に追われ、残業せざるを得ないことは確かに多い。
デザイン業界と言っても、Web系やインテリア系、エディトリアル、プロダクト、ファッションなど仕事内容が違うので画一的な表現はできない。DTP・印刷界隈では、昔から残業自慢・徹夜自慢が当たり前の世界だったことは事実である。
この定説、今でも残っているのだろうか?
自然と頭に記憶された「デザイン業界は残業・徹夜が当然」という感覚
初めてデザイン業界に関わったのは阪神淡路大震災後の復興まもない頃。当時は印刷物も現在より多く、景気もよく、デザイン・製版・印刷業界は連日忙しかった。初めて関わった製版業界では右も左もわからないまま仕事を覚えることに必死だった。毎日夜遅くまで残業しても、仕事を覚えることに必死で特に問題に感じなかった。入稿直前になると、差替え用の写真や商品スペックが決まって真夜中に届き、下版が明け方になることもあった。製版会社以外も同業種を数社経験したが、残業をしない会社はひとつとしてなかった。
デザイン業界の歪んだ姿を当然だと捉える不条理
実際、デザイン業界も当初は今ほど残業や徹夜は多くなかったのかも知れない。しかし、徐々に無理を強いられる機会が増え、徐々に基準が押し上げられて、残業や徹夜が当然と考えられていったに違いない。
仕事の性質上、残業や徹夜をすることに違和感はなかったが、「当然」だとする考え方には反発があった。その昔、デザイン事務所の就職面接での話。趣味がスクーバダイビングだと話すと「毎日遅くまで仕事があるから、そんなもの行く暇なんてないよ!」と、残業や徹夜が当然とも取れる発言をされたことがある。業界の悪しき習慣をためらいなく自慢気に話すその姿を見て、考え方の希薄さに就職を断ったことを覚えている。デザイン業界の内情は理解しているが、その現状を変えようとせず、当然の姿だと捉えるのは間違いである。
デザイン業界では仕事の分散で問題解決とはならない
一人の作業量を減らすために仕事の分散を図り、余裕を持って作業に取り組める環境づくりが必要である。働き方改革は仕事の作業環境を改善するための方策だが、デザイン案を考えてパソコンを使って創り上げるクリエイティブの仕事は一筋縄にはいかない。すぐにアイデアが思いつく場合もあれば、1日や2日考えても何も出ないこともある。パソコンでの作業も、強制終了やハングアップなどの不具合で、作業が思い通りに進められない事も考えられる。納期を考えれば、夜遅くまで作業せざるを得ないことが多々あり、仕事を分散するだけでは解決にならない。
働き方改革は業界最大手の社内における問題が発端で、ようやく国が動き始めたわけだが、無理な残業や徹夜はずっと以前から存在しており対応は遅すぎた。
責任を持って仕事を達成することが最優先事項
フリーランスとして独立後、企業における労働環境はデザイン業界を含めて以前より少しは改善されているのだろうか?
見るからオーバーワークで体を壊したり通院を余儀なくされることは避けなければならないが、保護過剰で過敏に反応しすぎることも良くない。より良い就労環境で心地よく伸び伸びと働くことは良いことだが、仕事で大切なことは情熱や責任感を持って約束事を守ることである。常に信念を持ち、多少の残業や休日出勤などイレギュラーな場面でも、仕事をまっとうする努力や忍耐力は必要である。現代人には「根性論」などと揶揄されそうだが、仕事の達成感や満足感は、辛いことや苦しいことを乗り越えた先に存在する。